一般的な加圧トレーニングとは?
八〇年代に入ると、時代のそうした移り変わりに対応して、ホリスティック医学の世界でも「非正統的医療」「非通常医療」といった自己規制的な名称を返上し、現代医学以外のすべての療法・健康法を「代替医療」ということばで総称しはじめる人たちがふえていきました。
アメリカではじめて社会的に「代替医療」という枠組みができたのは、その時期のことだったのです。
イギリスではそのころ、おなじものが「補完医療」と呼ばれていました。
関係にある二つの色光を混合すると、プリズムで分光するまえの太陽光(白色光)になるように、現代医学と補完医療をあわせれば、より全体的な医療になるという意味でつけられた名称です。
「現状にかわるべき」といったニュアンスをもつ「代替医療」よりは穏健な、いわばおとなの表現だというべきでしょう。
したがって、イギリスでも急進的な人たちは「補完」より「代替」という表現を好み、アメリカでも穏健な人たちは「代替」より「補完」を好むという傾向があったのはとうぜんのことでした。
ともあれ、現代医学以外のあらゆる療法・健康法を再評価し、新しい名称のもとに市民にとってアクセス可能なものにしようとする運動はアメリカからはじまって、たちまちヨーロッパの先進国にひろがり、それぞれの国情におうじて独特のかたちで発展をとげることになりました。
なかでも、対抗文化を背景にもつ「緑の党」が活躍しているドイツ、ベルギー、オーストリアなどは「オルタナティブ」にたいする意識が高く、現代医学以外の各種療法がポピュラーなものになっています。
「ディ・グリユーネン」(ザ・グリーン=緑の党)が連立内閣の一角を占めているドイツでは、それを「代替医療」あるいは「自然医療」と呼び、現代医学をおこなう医師とはべつに、各種の代替療法を専門におこなう「パイルプラクティカー」(健康士)という公的資格をもうけて、双方の棲み分けを可能にする制度が生まれています。
「代替医療」はフランスやオランダでも盛んになり、ドイツとおなじような制度をつくって医療の選択肢をふやす方向に改革が進んでいます。
ドイツとフランスは国民の半数以上が代替医療を利用するまでになり、デンマーク、ベルギー、スウェーデン、イギリスでは三分の一以上の国民が日常的にそれを利用しているということです。
チャールズ皇太子の支援のもとで国をあげて「補完医療」の充実をはかりはじめたイギリスでは、たとえば手かざし療法のひとつであるスピリチュアル・ヒーリングなどの補完療法を公的医療保険の対象に指定し、医師と補完療法の治療家が協力して患者の治療にあたる「ドクター・ヒーラー・ネットワーク」などの制度をつくっています。
九〇年代になると、アメリカの「代替医療」という名称とイギリスの「補完医療」という名称をひとつにした「補完代替医療」と呼ばれる傾向が欧米各国でつよくなりました。
これは主として政府・行政・大学などが公的に用いるときの名称で、略して「CAM」(カム)と呼ばれています。
それぞれの国で独自の発展をとげてきた「現代医学以外の治療法・健康法」が共通の認識のもとに、共通の名称で呼ばれ、国情のちがいをこえて情報交換がおこなわれるようになってきたのです。
アメリカではNIH(国立保健研究所)に創設されたOAM(代替医療調査室)が一九九三年から活動を開始しました。
そのオフィスの名称には「非通常医療調査室」と「代替医療調査室」のふたつの原案があり、激論のすえに僅差で後者が選ばれたという経緯がありました。
九〇年代にはすでに、主流文化の「オルタナティブ」ということばにたいするアレルギーがかなり薄れていたということを示すエピソードです。
OAMはわずか二〇〇万ドルだった当初予算を年々倍増させていき、九九年にはNCCAM(補完代替医療センター)に昇格して現在にいたっています。
国立がんセンターなどと同格の大きな組織になったNCCAMは、二〇〇二年度の予算が約一億ドルに達するほどに大きく成長をとげています。
連邦政府が代替医療を認知し、その研究や普及を推進しているおもな理由は、医療費の削減にあります。
国民医療費がGDPの一五パーセントを占めるアメリカでは、医療費の削減は国家運営の基盤を左右する重要な課題なのです。
したがって、ハイテクを駆使した高額な先端医療を推進する方向だけではなく、ローテク、ローコストの代替医療を普及させることによって予防医学的な効果をねらい、医療のしくみそのものを抜本的に変えようとしているのです。
代替療法にかかった医療費を償還する保険会社の数もふえ、その対象となる療法の種類と数も年々ふえています。
現代医学への過剰な依存をひかえ、ライフスタイルを改善して、積極的に代替医療を利用している人のほうが、現代医学に依存している人よりも健康度が高く、長生きをするということがわかってきたからです。
アメリカ生命保険協議会はすでに一九八〇年代の時点で、「今後五〇年以内にオステオパシー(骨調整療法)、ホメオパシー(同種療法)、マッサージ療法、鍼療法をはじとめとする東洋の伝統医療の治療家たちが、現代医学の医師とほぼ同程度の地位と収入を手にすることになるだろう」と予測する報告書を発表しているほど、代替医療の可能性を高く評価しています。
公的医療保険の対象を高齢者と低所得者、退役軍人だけに限定しているアメリカでは、国民の四分の三が民間の保険会社による医療保険を利用しています。
日本の自動車の任意保険とおなじように、特定の代替療法をカバーするという契約にしておけば、いざというときにその費用が保険で支払われるのです。
特定の代替医療にたいする治療費を償還させるべく、保険会社の指導をしている州の数も年々ふえているようです。
各大学の医学校でもCAMの研究と教育がはじまっています。
スタンフォード、バーヴァード、エール、カリフォルニア、アリゾナ大学など、一流といわれる医学校のほとんどにCAMの研究所ができ、医学生にCAMを教えるようになりました。
また、アリゾナ大学のアンドルー・ワイル教授などが中心となって、現代医学の利点とCAMの利点とを統合する「統合医療」という新しい分野を誕生させ、医師の再教育やCAMの臨床的研究がおこなわれるようになりました。
研究所に併設されている統合医療クリニックでは、その研究の成果を臨床に応用する試みもはじまっています。
代替医療が盛んになってきている国は、じつは欧米ばかりではありません。
ロシアもまた、国をあげて代替医療の研究や普及につとめはじめました。
ロシア保健省の付属機関として九いい〇年代前半に「伝統医療およびホメオパシー研究センター」が創設され、ホメオパシー、ナチュロバシー(自然療法)、リフレクソセラピー(反射療法)などを科学的に研究する部門や臨床実験の部門が誕生しました。
その機関は、アメリカのNIHにあったOAMがNCCAMに昇格したことをうけて、二〇〇一年に「伝統医療およびホメオパシー科学臨床実験センター」に拡大され、現在にいたっています。
同センターの所長には、ロシア保健省の前健康管理局長が就任しています。
欧米では代替医療の本場のようにかんがえられている中国には、日本とおなじように、これまで「代替医療」という枠組みがありませんでした。
しかし、「法輪功」が当局から「邪教」として非合法団体に指定されたことを契機として、あらゆる気功団体・気功医療機関が国家の厳しい管理下におかれることになった現在の中国では、気功は火が消えたように沈滞しています。
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